序章
あなたは最近、今の会社に中途採用で入社しました。しかし、業務は複雑にしてタスクは部分的にしか与えられず、なかなか全体像が理解できません。
マニュアルでもあればいいのに! 業務のトリセツはないのか!
仕事が憶えられない自分へのいらだちもあり、あなたが先輩に詰め寄ったところ…
「マニュアルは、ないな。ちょうどいい。仕事を覚えながら、業務トリセツを作ってよ」。
事態は少しも好転しないどころか、新たなタスクまで増えてしまったのです。
新規でマニュアル作りが必要となったとき、マニュアル作成に特化した私たちのような専門会社にご依頼いただくのはひとつの方法です。
しかし、期間や費用やその他さまざまな条件によって、自社でのマニュアル作成を選択される企業も少なくありません。
ここでは、そのような会社で業務マニュアル作成を命じられた立場の方に、マニュアル作成の専門家である私たち「株式会社ダイテック」がどこまで寄り添い、親身なアドバイスが可能か、実験的・挑戦的な試みで連載してみようと思います。
■前回の振り返り
前回では、実際のマニュアル作成に入る前の構想・準備の段階である「マニュアル設計」の考え方と、その方法について紹介しました。
今回は、前回のマニュアル設計に続いて、マニュアル制作のメイン作業となる執筆について見ていきます。
■執筆を始めよう
ではいよいよ、マニュアルの「執筆」に入ります。
執筆とは、主にマニュアルの本文を書くことを指します。
前回、マニュアル設計を丁寧にやれば「目次構成」までできたことになる、とお話ししました。今回は、この目次構成に従って、本文と必要な図表を作成し、配置していきます。
たとえば、あなたは業務マニュアル本文のはじめに「対象システムと起動方法」という項目を設定したとします。ここに必要な文章と図表を作って割り当て、この項の説明とします。
通常、ひとつの項の説明は、いくつかの手順から成ります。
説明コンテンツは、項目の表題と一致した内容でなければなりません。過不足があると読み手は混乱し、正確な情報が伝わらなくなったり、必要な情報を探し出せなくなったりします。
執筆を進める中で、項目名から外れた内容まで含める必要が出てしまったら、それはその項目の定義、つまりはマニュアル設計にブレがあるのです。ひとつの項を過不足なく簡潔に表現することが難しければ、マニュアル設計に戻って、構成を見直す必要があるかもしれません。
■読んでから見るか、見てから読むか。
上の見出しは、筆者が若かりし頃、ある映画の公開時に使われたキャッチコピーです。謎解き要素のあるこの作品では、原作小説と映画化作品のどちらを先に鑑賞するかは悩ましい選択肢であり、そこの葛藤をうまく突いたコピーといえるでしょう。
実際には小説と映画でオチが異なっており… いえ、本題から外れてしまうのでこの辺で。
マニュアルには通常、本文(テキスト)とイラストが使われます。さて、これらテキスト(読む)とイラスト(見る)は、どちらが先なのでしょうか。この場合の「先」には時系列順のみに限らず、どちらが主導か(優先か)、ということも含みます。
正解は… 主導はイラストであり、テキストでもあり、両者が相互に支え合うもあり、です。
イラストだけで必要な説明が足りていれば本来それに越したことはなく、その場合テキストは不要のこともありますし、実際にそのようなマニュアルも存在します。
しかし、それはなかなか実現が難しいものです。このマニュアルのコンセプトは、イラストだけで読み手に理解させることなのだ!というよほど明確な目的や必要性がない限り、わざわざ狙うことではありません。
また逆に、文章だけで説明しきってしまおうとすることも、陥りやすいトラップです。
「百聞は一見に如かず」の通り、ことばのレベルで多くの情報を伝えるよりも、一枚の絵で示すほうが断然わかってもらえます。
しかし、マニュアルを執筆する際の元ネタは、ことばによる情報も多いものです。
製品マニュアル作成であれば、メーカーさんから提供される仕様や諸元や機能などの設計情報。この記事で業務マニュアル作りに挑戦している読者であれば、これまで書き溜めた業務手順のポイントや数々のメモ、そしてこの記事がお役に立っているなら、記事の要点などです。
これらことばの情報に基づいて正確に手順を伝えようとすると、いきおい文章でどっさりと書いてしまいがちとなります。
そこでテクニックです。
まず、そこへ書きたい主旨を文字情報でよく理解し、ストーリーにします。ストーリーといっても長いものではなく「Aを使ってBをCし、Dの状態にする」といった、小さなストーリーです。
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次に、そのストーリーに必要な「絵」をイメージします。人とモノを描いたイラストがいいのか、システムの画面キャプチャがいいのか、グラフや表の形がいいのか。
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適切な「絵」が頭に描けたら、ストーリーとなる文章に戻り、必要最小限まで文章を削ります。絵で事足りる情報は、文章で事細かに説明する必要はありません。文章と絵をつなぐ「A」「①」などの記号を入れて、ことばよりも雄弁な「絵」の側に投げてしまいましょう。
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そして、初めのイメージにしたがって「絵」を整えればよいのです。記号や矢印、囲み、引き出し線などを使って、文章で述べている情報がストレートに伝わるように工夫します。
■これだけは外せない「一文一意」
前項でテキスト、イラストの原始的な作り方にさらっと触れましたが、テキスト・イラスト共にどうしても「上手・下手」というものがでてきます。これは仕方がないことです。
そこは、社内の業務マニュアルだから目をつぶってもらうなり、文章や絵が上手い人にそこだけは頼むなり、自分で技術を極めるなりしてください。
しかし、絶対に外してはいけないポイントがあります。
それは「一文一意」(または一文一義)ということです。
「一文一意」とは、「ひとつの文で述べることはひとつ」、という原則です。
前項の例で挙げた「Aを使ってBをCし、Dの状態にする」では、ABCDと4つの着目対象があるものの、実際には一個の手順動作を述べているにすぎません。
「Aを使って」(方法・手段・道具)、「Bを」(対象物)、「Cし」(作業・操作)、「Dの状態にする」(正しい作業の結果)という必要最小限のコンテンツで一文を構成しています。これが「一文一意」です。
人は普段、複数の動作や判断や確認をしつつ動くため、手順の文章を考える際も一度にいくつものことを一文に盛り込みがちとなります。しかしこれは極力避けましょう。
また、1個または2個程度の文章で説明するのが読みやすくなります。1文に1意ですから、1手順で述べる動作はせいぜい3動作ぐらいとなります。
それ以上の数になる場合は、手順を分けたほうがいいでしょう。
こうやって、マニュアル設計した構成の項目ひとつひとつに、手順を割り当てていきます。
読み手の置かれた状況をよく考え、予備知識や前提、操作や理解の順序、見えている状態などに沿った「読者視点」の内容となるよう、常に心がけてください。
業務マニュアルの作成は、すべての構成項目を手順文とそれに対応する図表で満たせば、基本的にはできあがることになります。
もちろん、初めからそううまくはいきません。まずはやってみましょう。
前回のマニュアル設計(構成づくり)よりも手数はかかりますが、作業は進むのでマニュアル設計ほど苦しくはないはずです。
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