序章
製造業では、設計業務で使用するCADソフトウェアは、2次元(2D CAD)から3次元(3D CAD)へのシフトが進み、3D CADで生成された3Dデータは、CAE解析やデザインレビューなどの製品開発の上流区の業務で主に活用されてきました。本記事では、製品開発の下流区にあたるマニュアル作成業務に焦点を当て、マニュアル内での3Dデータの有効活用について、事例を交えて解説します。
マニュアルのイラスト作成業務での活用方法
マニュアルを構成する要素には、文章(テキスト)以外に、表、図(イラスト)、画像(写真やスキャンデータ)などがあります。製品マニュアルで使用するテクニカルイラストの場合、従来は手作業による写真トレースや作図(図面や実物からの描き起こし)が主体で、ほとんどの企業が外部のイラスト専門会社に依頼してきました。自動車の整備マニュアルの場合、1冊に掲載されるイラストの数は2,000点を超える場合がほとんどで、作成には多大な工数が発生し、イラスト作成費用が膨らむのが依頼側企業の課題でした。
作成費用を抑え、社内でテクニカルイラストを作成する切り札として着目されたのが3D CADデータの活用でした。ただこの3D CADデータには、様々な設計情報が含まれているため容量が大きく扱いにくく、STEP· IGES · DWGなどの中間ファイルにコンバートして他のソフトウェアで編集する場合を除き、高価な3D CADソフトウェアでしか編集や加工できないのが実情でした。
2000年頃登場したXVL(eXtensible Virtual world description Language)は、ラティス・テクノロジー株式会社が開発した世界最高水準の基本性能を実現した軽量3次元フォーマットで、変換元データの約100分の1にファイルサイズを軽量化できる利点を持っています。主要な3D CADデータから変換して作成することが可能で、ハイエンドなワークステーションを使用することなく、通常のPCで気軽に編集できることが特徴です。このXVLデータを編集できる専用ソフトウェアには、テクニカルイラスト作成を支援するためのオプションが用意されており、XVL から線画として利用が可能な 2D ベクターイラストデータ(EPSやCGMなどのファイルフォーマト)へ出力が可能です。
線画としての活用だけでなく、面部分を網掛けや着色をして、立体的なイラストとしても活用することが可能です。
このXVLを利用したテクニカルイラストの作成は、自動車メーカなどで導入が進んでおり、整備マニュアルやオーナーズマニュアルのイラスト作成業務で、大幅な工数削減を実現した事例が発表されています。XVLデータを専用編集ソフトウェア上で好みの角度に回転させて、アイソメトリック図の作成に利用したり、輪切りにして断面図の作成に利用したりできます。また、専用編集ソフトウェア上で構成部品の工順(取外しまたは分解順序)を定義することにより、立体的な展開図も瞬時に作図することが可能になります。
3D動画マニュアル作成業務での活用方法
「YouTube」などの動画サイトで映像や情報を気軽に探す時代が久しくなり、製品の使い方やコツについても動画サイトを活用する機会が増えています。製品マニュアルについても、文章を読みイラストを見て理解するよりは、実際の製品の説明動画を観る・聴く方がわかりやすい場合もあり、ユーザーの動画志向をマニュアル作成業務にも取り込んでいくことが求められるようになりました。撮影したビデオ動画を活用して動画マニュアルを作成する方法は、社内の人材で内製する場合を除き、撮影や編集作業を外部の専門業者に依頼する必要があり、また撮影対象となる製品(発売時と同等の外観や仕様のもの)を事前に用意できていることが前提となります。
実際の製品マニュアル作成業務では、発売時と同等の外観や仕様の実物(実機など)を動画撮影用に事前に手配および取材することは難しく、発売と同時に納品が必要となる製品マニュアルの作成には時間的に対応できないのが現実です。ビデオ動画以外の素材として、設計時に作成した3D CADデータを活用して動画マニュアルを作成することも一つの手段になります。3D CADデータをXVLデータに変換し、前述のように構成部品の工順を定義することにより、専用編集ソフトウェアの自動アニメーション機能を使って部品の取外しや分解手順をアニメーション化することが可能になります。
このアニメーションを整備マニュアルや点検修理マニュアルなどに活用することで、直感的にわかりやすい「絵が動くマニュアル」の作成が実現します。
マニュアル作成業務以外での活用方法
モノづくりの中流区にあたる製造部門では、製品を組み立てる手順や留意事項を記した組立て要領書が使われています。部品の構成と組み立て順序については、 3D CADデータが持っている部品構成表(BOM )の情報と 3D CADソフトウェアの標準機能によって作ることができる部品展開図を利用することが可能です。この場合、設計部門で作成する 3D CADデータには、設計用のBOM (E-BOM)が使われているため、製造用のBOM (M-BOM)を用意しておくことが必要になります。
3D CADデータの他の活用が想定される部門として、製品の販促や販売を行う営業部門があります。営業部門では、製品を紹介するパンフレット類を作成したり、Webサイトを使った情報発信を行ったりしています。 3D CADデータからCGソフトウェアで取り込める中間ファイルにコンバートし、CGソフトウェア上でレンダリング処理などを行うことで、質感のある高品質のCGを作成することが可能となります。そうすることで販促資料やプレゼン資料での活用が期待できます。開発期間中は実物の撮影ができないことが多く、 3D CADデータからCGを作成する手法は、その代替手段としても有効になります。
まとめ 3Dデータは企業の財産
これまで述べてきたように、設計部門で作成する 3D CADデータは、多角的な利用が可能な3D データとして、マニュアル作成部門、製造部門、営業部門での活用が見込まれることがわかりました。3Dデータを企業の財産として捉え、設計部門だけでなく、部門を越えた横断的なデータの有効活用を進めることが、DX推進の観点からも製造業の重要なテーマといえます。
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